新しく建てる家の玄関に、とポスターの依頼を受けました。
僕は撮りためた写真はもう一つの記憶だと思っています。何が写っているかよりもその写真が含んでいるその前後の記憶の方が大切で、あくまで写真はそれらを引き出す思い出の見出しのような役割だと思っています。
撮りためた写真の中には覚えのない写真もあるでしょう。ふと思い出すシーンなんて膨大な記憶の量に比べればほんの一部に過ぎないでしょう。だから一枚一枚時系列に並べた写真の上から真っ黒に塗りつぶして、印象に強く残っている写真だけをぼカラーで浮き出るようにすることにしました。もちろん塗りつぶした部分も真っ黒でなくオーバープリントという印刷の特性を逆手に取って、近づいてよく見るとうっすら透けて認識できるようにしました。
印刷の混ざり合うことでどんどん黒へと近づいていく様は記憶と似ている気がします。膨大な時間に埋もれて忘れられていくものと、同じ時間と場所に共存したことで強まっていくものと。そのCMYKの4色と家族4人を対にして重ね合わせることで、家族が今まで辿ってきた一本の太く真っ黒な道を作りました。離れて見ると夫婦の歩くモノクロの風景写真です。
フレームはSITATEさんに別注で作ってもらいました。打ち合わせを重ね、僕や施主の希望を全部叶えてもらい、最終的に壁への埋め込みながらも容易に磁石によって着脱できるシンプルながらも重厚なフレームに仕上がりました。素材を合わせたメープルのスツールも添えて。ポスターの前で、腰を掛けるなり花を飾るなり客人を迎える役目を果たしてもらえればいいなと思っています。
とりあえず今回でGGGのポスターは集大成。いつか作品をまとめて個展でもできたらいいなと思っています。
1189×841mm。新聞紙を大きく2枚広げたほどのサイズのポスター。
今までの思い出と共に新しい生活を。